Vol.12「臓器と未病」−6)脳と未病
1.脳の働き
意識障害、頭痛・嘔吐、しびれ、歩行障害、言語障害、めまい、顔面けいれん、物忘れ、記憶違い、計算違いなど、ある年齢に達するとよく耳にする言葉です。
これらはどれも身近な症状ですが、脳に何らかの障害が生じたときによく起こります。この症状が更に悪化すると、生活に大きく支障をきたすことになります。
では、大事な脳がうまく働かなくなったらどうなるのでしょう。
今何が起きているのかもわからず、
歩いたり運動したりすることもできず、
毎日の楽しみを考えることもできず、
おいしい料理があっても、その色を見ることも、香りを楽しむことも、そして、味わうこともできません。
美しい音楽や美術を鑑賞したりすることさえもできません。
私たちは脳が健康であることで、さまざまな活動をすることができているのです。
脳の働きは、考えをまとめる(思考、理解)、行動を起こす(バランス、言語)、情動を感じさせる(喜怒哀楽)、脳神経(視、嗅、味、聴)、自律神経(汗、動悸)、ホルモンの調節など、人として生きていくために重要な働きがあります。
2.脳と未病
脳に起こるちょっとした症状やちょっとした検査異常に対して、私たちはなかなか重要視しない傾向にあります。はじめのうちは、少し時間が経つとなんとなく症状が治ってしまうことが多いため、原因を突き止めようとする行動に結びつかないようです。
これは、脳と血管と神経の関係が、他の臓器とは異なる仕組みになっているためです。下図のように、脳の神経細胞は脳の血管から栄養を与えられますが、神経細胞と血管の間に星状膠細胞(せいじょうこうさいぼう:中枢神経系に存在するクリア細胞の1つ)が存在し、血管から神経細胞に物質が移動する前に関門があり守られているのです。このことにより、神経細胞に害を及ぼす物質がなかなか入り込めず、結果として脳はダメージを受けにくい仕組みになっているのです。このしくみによって、健康を保つことができるというメリットがある反面、神経細胞が以上であることを察知できず未病状態に気づきにくいというデメリットもあるのです。
【未病1型】一般検査は正常だが、症状はある状態
①めまい:小脳や脳幹の障害、内耳疾患など
②意識障害:脳幹の障害など
③視覚障害:脳神経障害など
④複視:脳神経障害など
⑤運動失調:小脳疾患など
⑥頭痛:脳出血、脳腫瘍など
⑦失神:脳血流低下など
⑧痙攣:中大脳動脈の障害など
⑨言語障害:大脳皮質の障害など
⑩記憶障害:間脳の障害など
⑪味覚障害:大脳皮質の障害など
⑫嗅覚障害:大脳辺縁系の障害など
⑬ふらふら感、しびれ感:脳血管障害など
【未病2型】一般検査は異常だが、症状はない状態
①脳血管の狭窄
②動脈瘤
③小さな梗塞
④脳萎縮(脳室拡大)
⑤脳代謝異常
⑥血小板凝集能異常
⑦頚動脈の狭窄
未病の医学は、医師の態度が第一に問われます。今ある何気ない状態や一般検査の異常項目を疑うことで、本当の原因を突き止めることが望めます。同様に、患者様自身の意識も大切です。「このくらい大丈夫」と勝手な判断をせず、何気ない症状や一般検査での異常が見られた場合は、一度、未病の診療を受けることをお勧めします。
特に脳の場合、前述のような防御システムがあるため、症状が見逃されやすくなります。未病状態をより高い確率で発見するためには、患者様も脳の仕組みを知り、症状に敏感になる必要があります。上記のチェック項目を参考にして、気になる点があればできるだけ早い段階で検査をするのがベストです。
未病は元気そうに見えるうちに検査・診断する必要があります。
同時に、患者様が未病状態に鋭く気づく感覚が大切です。
血管活性化医療 Jinken clinic 院長 金澤武道
腎研クリニック 院長 金澤 武道 著書